夜 間 飛 行 惑 星

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□ モノカキ35 □

それでも

 一目見て運命の相手だと分かったのに、彼女は兄の許嫁なのだった。
 こんな理不尽があろうかと、亨(とおる)は激しく憤った。我と我が身とを嘆いた。やけ酒に付き合ってくれた友人は、家族の幸福を思いやるなら忘れろ忘れろ、と繰り返した。忘れるなんて出来るか、と亨は食い下がった。飲んでも飲んでも酔えない酒だった。
 夜半を過ぎて家に戻ると、兄の部屋にはまだ灯りが点っていた。静かな話し声が漏れ聞こえてくる。電話中らしい。亨は、襖ににじり寄って聞き耳を立てた。
 主に相手が喋っている様子で、兄は短い相槌を打っているばかりだ。この時間だからよほど親しい相手に違いなく、ひょっとしたら彼女かと思ったのだが、確証は掴めなかった。会話の終わる気配に、亨はそっとその場を離れた。
 自室に入り、灯りを点けないまま畳の上に寝転がる。火の気のない部屋は冷え切っていた。
 白い塊になって吐き出される呼気を、しばらく眺めていた。室内が急速に酒臭くなってゆく。背中がしんしんと冷えてゆく。
 兄の幸福を、願わないわけではなかった。彼女の幸福を、疑うわけではなかった。それでも、自分こそが彼女のほんとうの相手だという感じは、深く根ざして立ち去らない。
 胸を掻きむしるように悶え反転してうつぶせになり、畳を拳で叩いて亨は忍び泣いた。
 運命は残酷だった。この夜でさえ、やがては明けるのだった。



タイトル提供:「恋かもしれない35題」
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