夜 間 飛 行 惑 星

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□ モノカキ35 □

まっすぐ

 このままで、ずっと一緒にゆけると信じていた。
 のに。
「あー…もう…。ぐずぐずぐずぐず鬱陶しいなぁ…」
 微妙に語尾の上がる関西風のイントネーションでつぶやいて、ハルが俺の足を蹴る。
「だって…」
「だってもクソもあるかい。早よ泣きやめや」
 俺の前に、紙ナプキンを束で投げて寄越す。俺は素直に洟をかむ。
「コンビ解消しよ、言うただけやん。友だちやめるわけとちゃう」
「そうだけど…」
 なおも言い募ろうとした俺に、ハルははっきり不機嫌な顔になって眉をしかめた。
「却下」
 ああ、この間髪入れないツッコミが好きなんだよなあ、とこの期に及んで俺は惚れ惚れする。
「…『一緒にM-1目指そ』て言うたんは、冗談やったんか……」
 洟をかんだ紙を丸めながらうつむいてぼやいたら、耳ざとく聞きつけられ舌打ちされた。
「…ヘンな関西弁喋るな、鳥肌立つ」
「だってさあ…」
「しゃあないやろ」
 オヤジが、単身赴任はどうしても嫌やて言いよるんやもん。不機嫌そうな顔のまま吐き捨てて、コーラのストローを噛んでいる。
「仲のいい家族でうらやましいよ…」
「せやろ。ご近所でも評判や」
「…………」
「あほ」
 不発弾みたいな自分の冗談に、嫌気が差す。黙ってしまった俺を、ハルがじ、っと見つめてくる。俺は窓の外へ目を逸らす。
 ハルの視線は刺さる。容赦ない。
 最初に見たときからそうだった。中学校の入学式。柔和な外見から飛び出してくる早口の関西弁は、ものすごく違和感があった。呆気に取られて眺めていたら、思いきり睨まれたのだ。何か用か、とすごまれてとっさに口から出た一言が、俺とマンザイしよう、だったのには自分が一番驚いた。関西人はみんな漫才師やとでも思うとるんか、と呆れた顔で笑われたけれど、結局俺たちは友だちになった。
 あれから五年。あっという間だった。
 窓の外は明るい日差しに満たされていて、日曜日だからか家族連れが目立つ。カップルも目立つ。若者のグループも目につく。みんな、何がそんなにと言ってやりたいほど楽しそうだ。
「あいつらも、五年十年したら、ばらばらンなってるんだろうな…」
 思わず口からこぼれた。ハルが、ん?と喉を鳴らして、俺の見ているものを見ようと身を乗り出してくる。肘と肘がぶつかる。
 ふと、このまま時間が止まればなあ、と思った。冬の日差し、明るいファミレス、ぬるくなったコーラ。窓の外を見つめているハル。
 強い眼差しで、いつも前だけを見てる。俺も、追い抜くことはできなくても同じスピードで走ってゆくことならできると、思っていた。隣にいれば。離れたら――自信がない。
 俺はこのまま、ハルの過去になってしまうのだろうか。
(なあ、行くなよ、ハル)
 けど、悔しいかな俺には、そんなふうに言えるだけの力はなかった。
 うつむいて唇を噛む。自分がまだまだ幼いことが、こんなときにはどうしようもなく歯がゆい。
 元の位置に戻ったハルが、首をかしげて俺を見た。俺のほうへ手を伸ばしてくる。はっと気付いてよけようとしたときには、額を指で弾かれていた。
「ッ…!なんだよなんだよ、いきなり!」
 ほんとうは大して痛くなかったけれど、そのせいみたいに誤魔化して、涙目をこする。
「ごめんごめん」
 言いながらまた手を伸ばしてきたので身構えたら、今度は子どもみたいに頭を撫でられた。
 憮然としている俺を覗き込んで、ハルが笑う。
「安心せい。コンビは解消しても、オレの相棒は一生おまえだけや」



タイトル提供:「恋かもしれない35題」
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