夜 間 飛 行 惑 星

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□ モノカキ35 □

手を伸ばす

「こんなとき、無力だなって思うよ」
 明かりを点けない部屋の中、そこだけ明るいニュース画面から目を離さないままで早尋(さひろ)がつぶやく。ソファの上に引き上げた膝を抱えて、うずくまるようにして。
「この場所が、遠くても近くても、オレには何もできないってわかる。それが悔しい」
 何かしてやりたいって考えてるだけ俺よりマシ、と糺(ただす)は思ったが口には出さずにおいた。代わりに早尋の肩を小突く。
「そう落ち込むなよ。おまえにはおまえの、できることがどこかにはあるよ」
「慰めなんかいらねえ…」
「本心ですよ?」
 早尋は気づいていないのだろう。例えば、糺に対して早尋がどれだけの力を持っているか。自分が糺に与えている影響だとかその他もろもろ。善いことも悪いことも、糺は早尋を通して知る。糺にとって、世界とは早尋だ。
「あんた、たまに優しいよね…」
 膝を抱えていた腕を解いて糺に寄りかかってきながら、溜息のように早尋が漏らす。糺は笑って見せる。
「弱ってるのを苛めたって甲斐がないから」
「鬼…」
 嘘だよ、俺が優しくなれるとしたら、おまえの強さを迎え撃つにはそれしかないと思うから。
 これも黙っておいて、糺は早尋の頭を引き寄せた。感触を楽しみながら柔らかい猫っ毛を掻き混ぜる。早尋は、唸りながらもおとなしくされるままになっている。
「自分が無力だってことを知っとくのも、自分の力のうちなんじゃないかな」
「詭弁っぽい、けど、せめてそう思っとく。サンキュ」
 そうして早尋は言うのだ。いつか”その時”が来たら迷いなく発揮できるように、今は力を蓄えてゆけたらいいと思う、と。そうだな、と返事しながら糺の願いは別にある。
(俺はおまえに近づきたい)
 この先もずっと早尋に甘えたまま、手を引かれるままではいたくない。少しずつでもいい、自分自身を鍛えてゆきたい。
 他人の痛みを自分の痛みとして、他人の喜びを自分の喜びとして、そのまま糧に変えてゆく。どんな逆境にもどんな幸運にもためらわず飛び込んでゆける。そんな早尋の生き方から振り落とされないように。
(あきらめない)
(いつか届いてみせる)
 臨時ニュースは続いている。
 早尋とともに、糺も祈らないではいられない。
 自分にとって早尋が与えられているように、富める者にも貧しき者にも世界が、生きることが、同じだけやさしくありますように、と。



タイトル提供:「恋かもしれない35題」
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