夜 間 飛 行 惑 星

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ モノカキ35 □

空回り

 いつだってこうだ、と梨紗(りさ)は溜息をつく。
 あたしたちは今日を、とびきり楽しい一日にもできたのに。
 観覧車の小さなカゴの中で、向かいに座った和葉(かずは)は軽く眉をひそめたまま、窓の外へやった視線をこちらに向けようとはしない。 
 あたしが悪いんじゃない、と梨紗は思う。そして、和葉が悪いわけでもない。
 どうしてこうなってしまうんだろう。
 かたたん、かたたん、と小さく揺れたり軋んだりしながら、二人を乗せた丸いカゴは上昇を続けてゆく。
 反比例するようにカゴのなかの空気は沈んでゆく。
 もうずいぶん街が小さくなった。
 こんなに高い場所なら、さぞかし空気も薄いんじゃないかしら。梨紗は無意識に詰めていた息を吐いて、深呼吸をしてみる。違いは分からなかったけれど、少しくらくらした。
 二人の吐く息のせいでカゴのなかは表よりも暖かいのだろう。曇った窓ガラスに、和葉が指で○を描く。中を塗りつぶして●にして外を覗いて、やっとぽつりとつぶやいた。
「どうしてこうなっちゃうんだろうな」
 和葉がかたくなに梨紗のほうを見ようとしないのは、己を恥じているからだと梨紗は知っている。そんな和葉の奥ゆかしさを好ましく思っている。
 だけど今は。こっちを向いてほしいよ。いつものように笑ってほしい。
「梨紗は悪くない。俺も…。ただ、ほんの少し何かがずれちまっただけなんだよな…」
 あたしもおんなじように思ったよ。梨紗は胸のなかで叫ぶ。 
 こんなにも同じ想いのはずなのに、どうしてぴたっと噛み合わないんだろうね。
 呼びかけたい、だけど口を開けない。宙ぶらりんのまま梨紗がじっと見つめていると、和葉が肩で息をついて、うつむきかげんのまま早口に言った。
「あのさ、弁当。美味かったよ」
 ふいを突かれて、梨紗は思わず目をしばたたく。それから猛烈に嬉しくなって、うつむいてしまう。
 ちゃんと分かってくれていたんだ、あたしが早起きしてがんばったこと。食べているときには不機嫌そうにして何もコメントをくれなかったくせに。
 それが和葉だった。見ていないようで見てくれている。梨紗のことなんか気にしていないようで、いつもきちんとフォローをくれる。これが和葉だ。
 そして、和葉のそんなところを誤解や早合点なしに受け取れるのは自分だけだと、梨紗はひそかに自負している。
「ありがとう」
「うん。こっちこそ」
 また、よろしくな。そう言って顔を上げた和葉が、ふっと目を細めて梨紗を見る。
「和葉、だいすき」
 思わず口走ってしまう。一瞬目を丸くした和葉だが、すぐにふわっと笑ってくれた。
「知ってるよ」
 俺も、と言うように和葉が手を伸ばして梨紗の髪を撫でる。
 やさしいおおきな掌の下で、さっきまでずれていた気持ちがゆっくりと寄り添い並んで、廻りはじめるのが分かった。



タイトル提供:「恋かもしれない35題」
スポンサーサイト

*    *    *

Information

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。