夜 間 飛 行 惑 星

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□ 箱庭(小説) □

煙が目にしみる

「ずっと、ずーっと、あんただけ好きでいたかったよ」
 つぶやいた声は震えていた。表情は長い前髪の陰になって見えない。
「あんたのことだけ見て、あんたのことだけ考えて、あんたのためだけに生きていきたいと思ってたのに」
 ソファにかけた男の正面に突っ立った青年は、途方に暮れた様子で拳を握りしめていた。
「どうして、できなかったのかな……」
 男はひっそりと笑った。笑うしかなかった。
「ばぁか」
 そんなことに悩んでこの何週間かずっと暗い顔してたのか? 男の言葉に青年は、さらに深くうつむいてしまう。
 男は手を伸ばして青年の左手に触れた。びくっと跳ねて逃げようとするのを掴んで引き寄せ、薬指の付け根をそっとなぞる。
 冷たく固い金属の感触。
 呻くように喉を鳴らした青年が、低い声で尋ねてくる。
「ねえ、怒ってる……?」
「なんで?」
 見上げた男を目を眇めて見つめてきた青年の、指先は細かく震えている。
 空気を求めて喘ぐ魚みたいに何度か唇を開いては閉じした青年は、ついに瞼を伏せると消え入りそうな声で囁いた。
「あなたがいちばんだった。知っていたでしょう……?」
「……ああ」
「ずっと──ほんとは今も……」
「こら、それ以上は……」
 たしなめるような男の口調に、青年は自嘲気味に笑みを浮かべて瞼を上げた。
「ごめんなさい。けど、ほんとうのことだから」
 困った顔になった男を、じっと見つめてくる。
「ねえ、あなたにとってもいちばんの存在になりたかったよ」
 それが叶わないと感じたから別の相手を伴侶に選んだのか? とは尋ねないまま、男は青年の手を離した。
「なぁ」
 握りしめた手を痛むみたいに胸に押し当てた青年に笑いかける。
「しあわせになれよ」
 うなずいたともうつむいただけとも取れる仕種で頭を下げた青年から目を逸らす。
 窓の外には、目が痛くなるほどにまぶしい青空が広がっている。油断すれば涙が滲んできそうだった。
 今日のことを一生、かすかな後悔とともに思い出し続けるのだろうなと予感しながら男は、苦い煙草に火をつけた。
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