夜 間 飛 行 惑 星

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□ モノカキ35 □

雑踏のなかで

 君の背中を、見たと思った。
 鮮やかな青いパーカー、人波に呑み込まれてゆく。
 思わず手を、伸ばしかけて、そこですべてが止まる。
「さよなら」
 と僕は言った。あのとき。笑顔で君を送り出す。そう決めて。
 君は、戸惑うような表情を見せた。それからすぐに、ふっと微笑んで踵を返した。そのまま歩き出した。
 横断歩道を渡る君の後ろ姿を、僕は、祈るような気持ちで見つめていた。君が、振り向かないかと。もう一度、僕を振り向きはすまいかと。
 そうすれば僕は、駆けてゆくことができる。意地も遠慮もかなぐり捨てて。君を抱きしめるために。
 だが、青いパーカーの背中はあっさりと遠ざかる。まっすぐに前を見据えて。選んだ道を、迷いのない足取りで。
 歩行者信号が点滅を始めた。
 これが最後のチャンスだ、と自分の内で叫ぶ声がした。追いかけろ、と心は命じた。
 激しく脈打つ心臓が痛くて、セーターの胸元を掴む。呼吸が苦しかった。追いかけろ、追いかけろ、と心は命じる。冷たい汗がとめどなく背筋を伝う。
 小さくなってゆく君の姿。目に染みる青。
 このまま行かせてしまうのか。
 僕の喉を、声にならない叫びが突いた。
 一瞬、すべての音が途切れた。
 そして、信号が切り替わる。
 堰を切ったように車が動き出す。
 何台かは、スクランブルの真ん中に取り残された僕を責めるようにクラクションを鳴らして。猛スピードで。立ち竦む僕のすぐ目の前を、通過してゆく。眩暈がした。
 眩暈が、した。
 あのときの、あの交差点に、僕は今も立ち尽くしている。信号はまだ、青にならない。



タイトル提供:「恋かもしれない35題」
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